足立区千住「タカラ湯」の建築調査報告、三重県伊勢市の方々の来訪|せんとうとまちニュースレター vol.43
新緑まぶしい気持ちの良い天気が続き、次第に初夏を感じさせる季節となってきました。今月も「せんとうとまち」の活動についてご案内いたします。
今回は、5月の神田祭で大きな話題となった「銭湯山車巡行」の熱気溢れる報告や、「せんとうとまち」.が行った足立区「タカラ湯」の貴重な建築・庭園調査の成果、江戸の銭湯ともゆかりのある三重県伊勢市議会との交流などについてご紹介しています。
「せんとうとまち」としても、失われゆく銭湯文化の記録と継承へのさまざまな取り組みを各地の団体や企業のみなさまとともに進めていければと考えています。
引き続き銭湯のあるまちなみの魅力を発信し、広めていく活動に力を注いでまいります。皆さまのご支援を心よりお願い申し上げます。
「タカラ湯」の建築調査・庭園調査を行いました
この度、2023年の大成建設自然・歴史環境基金の助成金を基に足立区千住にあるタカラ湯の建築調査(2024年9月~11月に3回)と庭園調査(2025年2月に2回)を行いました。
タカラ湯は昭和2年(1927年)創業の銭湯で、元々荒川の土手近くにありましたが、昭和13年(1938年)に現在の地に移築、以来87年間、当地において営業を続けてきました。
創業者の夫は庭師で、脱衣場と浴室から見える庭園は自らの手で作庭したと言われています。その歴史を感じさせる庭園の眺めは、“キングオブ縁側”と称され、都内屈指の美しい眺めを持つ縁側が誕生しました。現在も地域住民の方々はもとより多くの銭湯ファンに愛されている銭湯です。
今回のタカラ湯の調査は、千住で歴史のある建物の活用を展開している「千住いえまち」の皆さまの紹介により実現しました。千住いえまちは、2011年から活動を開始し、今も“千住らしいまちなみ”の消散を防ぎつつ、新たなアイデアで千住の既存の建物や軒先などを活用するプロジェクトを行っています。調査では、「千住いえまち」のメンバーの方々や法政大学の学生と協力体制を組みながら行いました。
千住はかつて千住宿と呼ばれた宿場町で、発電所や工業地帯が近く、色街として栄え、昭和33年(1958年)には36軒もの銭湯が存在していました。令和3年に取り壊されてしまった“キングオブ銭湯”こと「大黒湯」(昭和4年建築)、江戸東京たてもの園に移築保存されている「子宝湯」(昭和4年建築)も、もとは千住にあった銭湯です。しかしながら、時代の変化と共にその姿は変わり、現在、千住に残る銭湯はタカラ湯を含め残り6軒となっています。
今回は、そのような状況にある千住の貴重な銭湯の一つであるタカラ湯を、私たち「せんとうとまち」が記録させていただいたことを大変光栄に思います。写真撮影のほか、建物と庭園の平面図を記録、古図面や古写真の確認をしました。今後もタカラ湯さんとのご縁を大切に、微力ながらタカラ湯さんを応援し続けていけるような活動も展開していけたらと考えています。
調査を通してタカラ湯オーナーの松本さま、千住いえまち会長の鶴巻さま、舟橋さまには大変お世話になりました。これからも貴重な銭湯やまちの文化を守っていくために、皆さまととも協力しながら共に歩んでいけたらと思います。読者のみなさまにおかれましても、千住のまちに来られましたら、ぜひ一度ご入浴いただき、タカラ湯の魅力を体感して下さい。
三重県伊勢市議会の皆さまが稲荷湯長屋へ来訪されました
去る5月19日、三重県伊勢市議会「教育民生委員会」の皆さまが東京都北区の滝野川稲荷湯および「せんとうとまち」が運営する「稲荷湯長屋」の視察にいらっしゃいました。
当日は、稲荷湯内部と長屋の視察に加え、簡単な「せんとうとまち」の活動紹介レクチャーを行い、意見交換を行いました。
伊勢市には、現在歴史ある民営の銭湯が2軒あるほか、市営で指定管理者が運営する銭湯が1軒あります。継続して運営していくことの大変さはどこも共通しており、銭湯の今後の地域における可能性を探るため、今回視察にいらっしゃったとのことです。
一説には、銭湯の始まりは伊勢出身の「伊勢与市」という人が、江戸に作った湯屋がはじまりとも言われています。その説にも感化されているそうで「伊勢から銭湯を無くさない」ことをモットーに皆さま熱心に視察をされていました。
伊勢神宮にあやかった個性的な銭湯もあるようですので、ぜひ伊勢詣でがてらに皆様も伊勢の銭湯にもお立ち寄りください。
銭湯山車巡行 in 神田祭
5月10日(土)、「せんとうとまち」の関連団体「銭湯山車巡行」が神田祭に参加し、水天宮前から神田明神まで2時間半をかけて練り歩きました。
2019年から始めたプロジェクトは、前回2023年の神田祭を経てさらにパワーアップ。協力・協賛は20件以上、山車の高さは最高4.5mと過去最大となり、煙突から煙を吐きながら、チンドンの皆さまの演奏とともに「いい湯だな」を歌う最大70名ほどの行列で巡行を行いました。「今はなき銭湯を弔い、今を生きる銭湯を寿ぐ」祭典となりました。現役の銭湯・電気湯での展示も5月29日までの会期で無事終了いたしました。
銭湯山車巡行は、台北・陽明山芸術祭(2025年6月まで)で映像展示されているほか、秋以降も様々な計画が予定されています。今後の動きにご注目ください。
「わたしからみた“稲荷湯あたり”」展 開催中
6月6日(金)〜8日(日)まで、稲荷湯長屋で法政大学大学院建築学科の学生さんが3日間展示会を開催しています。稲荷湯長屋でたまにお店番をしてくれている大学院生さんです。
1年間稲荷湯と長屋に通い詰め、地域の方々と交流を深めインタビューを重ねながら作り上げた卒業論文、稲荷湯付近の模型(法政大学学部3年生授業「フィールドワーク」による制作)、パネルなどの展示をします。
また、稲荷湯界隈のあたたかいコミュニティを支え、惜しまれながらも昨年夏に閉店、解体された「美粧院リリー」の懐かしい当時の様子なども展示予定です。「せんとうとまち」も取材や記録等に協力しています。
"稲荷湯あたり"の過去 現在 未来を地域にお住まいの方々、観光で来られた方々などにご覧頂き、共に考える機会になればと思います。入場料は無料です。ぜひお立ち寄り下さい♨️