本年もどうぞよろしくお願いいたします。稲荷湯長屋再生で荒壁づくりに着手|せんとうとまちニュースレター vol.3
2022年、新年明けましておめでとうございます。
一般社団法人せんとうとまちにとって、2021年は活動の本格化や、稲荷湯の長屋再生に注力した一年となりました。また、団体としての活動も本格化し始めた年でもありました。
2022年は、稲荷湯の長屋再生のみならず、各地の銭湯とともに、銭湯のあるまち並みづくり、持続可能な銭湯とまちとの関係を模索する一年としたいと思います。本年もどうぞご支援のほどよろしくお願いいたします。
先月の12月は、ワークショップ形式で開催した土壁の下地となる格子を編んだあとの土壁づくりに着手しました。コラムでは、副代表理事の牧野のコラムを掲載しています。その他、メディア掲載情報や、1月22日に北区主催の講演会をお知らせいたします。
稲荷湯の長屋再生、荒壁づくりに着手
11月27日、28日の2日間に土壁の左官工法である「竹小舞」で土壁の下地となる格子編みをワークショップを行った後、12月18日、19日の2日間、竹小舞で編んだあとに最初に塗りつける壁、下塗りである荒壁づくりを行いました。
荒壁は、まず小舞の片面から塗ります。冬の季節のため凍結しないように断熱設置した後、翌日は裏返しして反対側を塗ります。
左官職人さん曰く、土壁は乾くのに最低でも3ヶ月かかるとのこと。下塗りが終わった後、中塗り、本漆喰で仕上げるため、壁が完成するのに最低でも半年、普通は1年はかかるそうです。
蔵などのより厚い壁をつくるときは、塗って乾かす工程を何度も繰り返すため、もっと時間がかかります。一般的な合板でできた壁は湿気に弱く壁の寿命が短いですが、土壁はメンテナンスすれば100年以上保つことができます。日本の風土に合った伝統工法の魅力や価値を改めて感じさせるものでした。
いまでは、こうした土壁づくりをする現場も少なくなりましたが、私たちは、こうした伝統左官工法や歴史的な資源に注目しながら、取り組んでいきたいと考えています。
稲荷湯の長屋再生のプロジェクトの支援をいただいているワールドモニュメント財団は、こうした地域の大切な場所である銭湯の保全、修復のサポートに加え、それらを支えてきた伝統工法や技術、職人文化の継承にも力をいれており、そうした考えから、今回のワークショップを実現することができました。
地域に開いた取り組みを通じて、銭湯そのものを多くの人たちで関わっていく機会を、せんとうとまちとしても引き続きつくっていきたいと思います。
稲荷湯の長屋再生はまだまだ続きます。壁が完成した後は、内装や空間づくりに移っていきます。長屋のオープンのみならず、こうした長屋再生の過程も含めてご覧いただけますと幸いです。
引き続き、ご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
■コラム「せんとうとまちと私」
ここでは、せんとうとまちに関わるメンバーらによるコラムをご紹介します。「せんとうとまちと私」をテーマに、それぞれの考えや普段見聞きするちょっとした話などを思い思いに掲載してまいります。
今回は、せんとうとまち副代表理事の牧野より、自身の経験などから見た、銭湯の魅力やまちのあり方について書いていただきました。
銭湯とまちの魅力「界隈性」
私は学生の頃、クメール建築の研究をしていたため、大学院生時代の半分近くをカンボジアで過ごしました。カンボジアでは、研究テーマであった世界遺産の石造建造物群に魅了される一方、カンボジア、とりわけアンコールワットのあるシェムリアップのまち並みにとても惹きつけられたことを覚えています。
シェムリアップの市街地はアンコール遺跡群の南に位置し、アンコールワットからは車で15分程のところにあります。遺跡群を巡る際の拠点となるため、国際観光都市らしく街中では欧米、アジアなど多国籍な人達が街中を歩き、遺跡巡りとは一味違う観光を楽しんでいます。
ここで目につくのがまち並みの面白さです。街の中心部には地元住民も訪れるオールドマーケット(市場)があり、それらを取り巻くように観光客が訪れるレストランやお土産屋の入った建物が軒を連ねています。実はこれらの建物の多くは、19世紀後半から20世紀前半のフランス植民地時代に建てられた、西洋風の外観意匠をした歴史的建造物です。そしてそれら建物の間を縫うように、現代的なホテルや地元住民による在来建築の商店、民家がひしめき合い、シェムリアップ中心部の特徴あるまち並みを形成しています。他のカンボジアのまち並みとは異なり、フランス由来のアーチやコーニスなど西洋風の装飾があちらこちらで目に入り、地元住民と観光客が行き交う多国籍な街の雰囲気と相まってとても重層的な光景となり自身を惹きつけてやみませんでした。
カンボジアで受けたこのような印象は、実は建築の世界では「界隈性」という言葉を使い、歴史的なまち並みにおける魅力ある体験を一つのキーワードで表現しています。「界隈性」とは「個々の非合理的条件が全体としては合理的にまとまっている状態」のことを言い、まち並みにおいては、古い建物がまち並みを形成するほど集中して残っていて、そこに昔ながらの生業があれば強烈な個性となり、外部からの人を引き寄せる力を発揮する効果があると言われています。
シェムリアップのまち並みにおいても「地域住民のための市場と観光客が集うレストラン、お土産屋」「フランス植民地時代の建築と現代の建築」といった、一見、非合理的条件が揃ってはいるけれども、まち並み全体としては、東南アジアならではの異国情緒溢れる雰囲気を体感できる場としてまとまっており、まさに界隈性に富んだ場所として、世界遺産であるアンコールワットに勝るとも劣らない魅力を我々に提供してくれているのだと思います。
さて、銭湯とそれを取り巻くまち並みについてはどうでしょうか?
実はまち並みの魅力という観点で見た時に「界隈性」を最も発揮する場所の一つが「銭湯とまち」の関係だと考えています。というのが、銭湯がある場所には、決まって昔からの生活習慣が残っており、そのために関連するまち並みもまた昔からの古い建物が多いからです。特に開発著しい東京のような大都市内にあっては、その効果はより際立ち、強烈な個性を発揮しているように感じます。銭湯とそれを取り巻くまち並みは、都市を支える後背地であることが多く、これまであまり目立つことはありませんでしたが、まち並みとして捉えた時には、その地域が積み重ねてきた生活文化の歴史、まさに「リアルな東京」を体感できる場として、都市に匹敵する素晴らしい魅力を私たちに提供してくれます。
しかしながら、近年「銭湯とまち」を取り巻く環境は大きく変化しました。風呂付きの住宅の増加により、多くの銭湯が廃業に追い込まれ、そして、銭湯の廃業は、それを取り巻くまち並みにも大きな変化をもたらしました。また、相次ぐ異常気象や将来予想される大地震などの影響による防災意識への高まりは、開発者が木造密集地域である「銭湯とまち」を容易に破壊してしまう正当な理由となりました。銭湯とまちは人が住む場所である以上、安全が確保されることは最優先にされるべきですし、わざわざ進んで昔ながらの生活を強いられる謂われもありません。ただし、その魅力を知った上で、変化を受容していくことと、魅力を知らないまま変化に流されていくことでは、その後のまちとしての価値に大きな差が出ることは明白です。
「界隈性」は、互いを尊重しあってこそ成り立つ概念と考えています。私たち「せんとうとまち」では、銭湯とそれらを取り巻くまちに関わる人たちと手を取り合い協力しながら、その魅力を次世代に継承していくことが出来るよう、今後も活動を続けていければと思っております。
牧野徹
■メディア掲載
11月28日、29日に開催した土壁WSの様子が、12月16日付東京新聞に掲載されました。ウェブ版のみならず、新聞紙面でも大きく掲載いただいています。ワールドモニュメント財団の支援で実現したことや、伝統左官工法の「竹小舞」の魅力、ワークショップに参加された方のコメントなど、しっかりと取材いただいて記事となっています。
▼憩いの銭湯 まちの拠点に 滝野川・稲荷湯 築94年の長屋再生
https://www.tokyo-np.co.jp/article/149136
■イベント情報
2022年1月22日にて、北区の主催の講演会にせんとうとまちのメンバーが登壇いたします。
講演会のテーマは「銭湯からまちを考える」。登録有形文化財に指定された稲荷湯を中心に、せんとうとまちの活動や銭湯と街並みのあり方、その魅力などについてお話いたします。
参加登録はこちらから。定員50名で定員を超えた場合は抽選とのこと。応募の〆切は1月12日までとなっています。ぜひ、奮ってご参加ください。
▼北区文化財講演会「銭湯からまちを考える」(北区飛鳥山博物館)
https://www.city.kita.tokyo.jp/hakubutsukan/kouza/03nendo/bunkazaikoenkai.html