伝統工法「竹小舞」で稲荷湯の長屋再生ワークショップを開催 |せんとうとまちニュースレター vol.2
こんにちは。銭湯のあるまち並みの魅力向上に取り組んでいる一般社団法人せんとうとまちです。12月のニュースレターをお送りいたします。
季節は秋から次第に冬になっていき、朝晩も寒々しい日となってきました。12月は「師走」と言うように、忙しい日々が続く人も多いことでしょう。そんなときこそ、銭湯の熱いお湯につかりながら、一日の疲れを癒やしてみてはいかがでしょうか。
先月は、稲荷湯の長屋再生に関連して、伝統工法のワークショップという一つの大きなイベントが開催されました。「竹小舞」という伝統工法そのものの継承だけでなく、実際にそれを体験する機会をつくれたことは、私たちにとっても大変貴重な機会となりました。
また、今回から、メンバーらによるコラムも掲載していきます。最初ということで、代表理事の栗生にコラムを書いていただきました。それでは、今月もどうぞよろしくお願いいたします。
稲荷湯の長屋再生、伝統工法を体験するワークショップを開催しました
撮影:サム・ホールデン
撮影:サム・ホールデン
撮影:サム・ホールデン
撮影:大久保勝仁
11月27日(土)、28日(日)の2日間、国の有形文化財に登録された滝野川稲荷湯の長屋再生の一環として、設計当時に⽤いられていた土壁左官⼯法を継承し、土壁を再生するワークショップを開催しました。
土壁の左官⼯法は、現代ではほとんど使われていない大変希少な伝統工法で、職人さんに教わりながら「竹小舞」と呼ばれる土壁の下地となる格子を編むという貴重な体験でした。
27日の午前はレクチャーで「竹小舞」の歴史や説明、職人さんらで実際の作業の様子を披露しながら技法を知っていただく時間としました。その後、27日午後、28日午前、午後の3回に分けて、その都度、職人さんに教わりながらそれぞれで実際に「竹小舞」を編みました。
各回とも、定員8名という少人数での実施でしたが、参加者の熱量も高く、職人さんの説明や手ほどきにも真剣に耳を傾け、貴重な工法を見るだけでなく実際に自分の手でやってみることの面白さを感じ取っていただきました。
2日間のワークショップを経て、竹小舞は無事に完成! 次回は、完成した竹小舞の上に土壁を塗っていく作業になります。
稲荷湯の長屋再生のプロジェクトの支援をいただいているワールドモニュメント財団は、こうした地域の大切な場所である銭湯の保全、修復のサポートに加え、それらを支えてきた伝統工法や技術、職人文化の継承にも力をいれており、そうした考えから、今回のワークショップを実現することができました。
地域に開いた取り組みを通じて、銭湯そのものを多くの人たちで関わっていく機会を、せんとうとまちとしても引き続きつくっていきたいと思います。引き続き、稲荷湯の長屋再生に取り組んでいます。皆さんにもご参加いただける機会も設ける予定です。ご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
■コラム「せんとうとまちと私」
ここでは、せんとうとまちに関わるメンバーらによるコラムをご紹介します。「せんとうとまちと私」をテーマに、それぞれの考えや普段見聞きするちょっとした話などを思い思いに掲載してまいります。
最初は、せんとうとまち代表理事の栗生より、銭湯にまつわる思いやせんとうとまち設立に至った考えについて書いていただきました。
あなたのまちに銭湯はありますか?
まちに滲み出るようなふわっと漂う湯気、石鹸の香り、カポーンと響く桶の音、そして柔らかく夜道を照らす玄関の明かり……地域の守り神のような銭湯。
東京だけでも戦後の最盛期には2700軒近くあったという銭湯は、あっという間に500軒を切り、その減少はとどまるところを知りません。私のまちにもたくさんあった銭湯は、もうごくわずかです。
私が銭湯に真剣に向き合うようになったのは約10年前になります。地域の魅力を掘り起こし発信する活動の中で、建物のリサーチを通して出会うこととなりました。
日が暮れ始めるとぽわっと灯る明かりに、まちの至る所からポツリポツリと住人が現れ、吸い込まれるように入っていく。そんな人々に引き寄せられるように暖簾をくぐると、そこには地域の人々の居場所としての銭湯が生き生きと存在していました。
幼少期から何度か銭湯に足を運んだことはありましたが、地域に向き合うなかで、その時改めて「本来の地域の姿はここにある」と感じたのです。そこから、しぶとく地域の銭湯と関わる過程で、あらゆる「地域らしさ」が淘汰されていく現代の都市において、これほどまでに地域を物語る場所はないという確信に変わりました。
銭湯はもちろん公衆衛生のための場ですが、古くから地域の人々のコミュニケーションの場、コミュニティのサロンとしても機能しています。特段コミュニケーションを取らなくても、ただ、そこに他人がいて生活があるという気配を感じられる場所です。
今日の日本の都市生活は、心身共に個人が内へうちへと閉じこもる方向へと加速し、生活者の孤立化が止まりません。それらに慣らされた結果、知らない他人の言動に過敏に反応し、攻撃する、排除するといった許容性のない世の中へと化しているように思います。
そうした時代のなか、近くの他人と共に時間を過ごし、触れ合い、知る。理解はしなくても存在を確認し合う……そのような絶妙な距離感、都市生活でのバランスを得る場としても銭湯のような居場所が果たす役割は非常に大きいと感じます。
また、もう一つ忘れてはならないことは、銭湯は「まち」とともに存在しているということです。今まで地域活動を通し、ご近所の6軒もの銭湯が消えていく現場に立ち合い、そこで育まれていたコミュニティが銭湯と共に解体される様子を目の当たりにしてきました。
ただ、ここでさらに深刻なのは、その周辺地域で起こる甚だしい変化です。銭湯周辺の風呂無し住居が空き家になり、解体され、同時に商店が潰れ、人が通らなくなる。まち一つ消えるほどのインパクトを感じることがありました。まさに銭湯を中心に地域の生態系のような関係性が広がっていることが浮かび上がったのです。そのような経験から、私たちは、銭湯そのものだけではなく、銭湯を取り巻く周辺地域にも向き合うことを一つの理念とし「せんとうとまち」という名でそれらのサポート活動を始めることにしました。
銭湯とまちが育んできた地域の歴史とその価値を丹念に紐解き、それらの関係性を再生しながらこれからの地域の可能性につなげていく作業。様々な専門家の力を借りながら、町医者的、御用聞き的にサポートができたらと考えています。
高齢者の見守りや子育て問題などの地域のセーフティーネットとして、防災拠点や社会を学ぶ場として、限られた資源の共有の場として……これからの都市生活において、より一層銭湯に潜在する価値や可能性は大きくなっていくことは間違いありません。日々の営業に追われる銭湯主の皆様には何を呑気なことをと思われてしまうかと思いますが、少しの可能性でも次の世代にこの素晴らしい文化をつなげるお手伝いを微力ながらできればと考えています。
まだまだ模索中の活動ですが、一つでも多くの銭湯とまちの豊かさが維持・再生される一助となればと思います。
(栗生はるか・せんとうとまち代表理事)